デンマーク・日本いろいろ 第26号
デンマークの新型コロナウイルス事情 その2
2020年3月
デンマーク政府が非常事態宣言を発令してから2週間が経ちました。この間国の対応や状況が早いスピードで変化しているので、デンマークにおける新型コロナに関する最新情報を再度お送りします。
デンマークに非常事態宣言が発令されてから一週間後の3月17日、フレデリクセン首相は、ふたたび緊急記者会見を開き、次のような厳しい政府決定を発表しました。
  • 非常事態宣言発令後も、感染者/入院患者/重篤患者数が急増しているので、より厳しい措置を取ることにした。
  • 翌日18日10時から3月30日まで、公的私的を問わず、屋内屋外を問わず、10人以上の人の集まりを禁止する。
  • 同様に、不特定多数の人が集うレストラン・バーなどの飲食店やショッピングセンター、屋内スポーツ施設(フィットネスセンターを含む)、さらに美容室やマッサージクリニック、歯科/眼科クリニックなど人との濃厚接触の可能性が高い事業の営業も一時的に禁止する。 レストランの出前営業はOK。
  • 食料品などの生活必需品を扱っている店や薬局はオープンしており、入荷も平常通りなので、市民は落ち着いて、しかし責任感と隣人への配慮を忘れずに、買い物をしてほしい。
  • 営業を続ける店は、客同士が十分な距離を保ちながら買い物できるような対策を取らなければならず、また買い物客の手洗い・消毒を可能にしなければならない。さらに従業員への十分な安全対策を取ること。
この記者会見が終了した直後、今度は女王陛下の特別スピーチが放送されました。マルガレーテ二世女王は、毎年大晦日の晩6時にテレビを通じて全国民向けのスピーチをされるのが恒例になっていますが、それ以外の時期に国の元首が全国民向けスピーチをされることは非常に異例なことで、これは、1945年5月4日、デンマークがナチスドイツ占領から解放されてふたたび独立した日に当時の国王クリスチャン十世がされたスピーチ以来とのことです。
出所:Kim Rafslund, DR© 3月17日におこなわれたマルガレーテ二世女王陛下の全国民向け特別スピーチ
 女王陛下のスピーチを要約しますと、
「デンマークおよび世界は、今非常に困難な状況にあります。私たちの現実世界や日常生活が逆転したことに、多くの人が不安を抱いていることでしょう。しかし私たちは、非現実的な状況が、今私たちの新たな現実であることを直視しなければなりません。今しがた首相から、より厳しい決定が発表されましたが、これから数週間に状況がどのように進展するかは、まさに、私たち一人ひとりが今どんな行動を取り、どう対応するかにかかっています。それゆえ、皆さんにお願いします。
 関係当局からのアドバイスは、非常にシンプルです。手を洗い、人との距離を保ち、身体的な接触を避け、家にいることです。これが基本的なルールです。幸い大半の人はこのルールに従って行動されていますが、残念ながら、中にはこの事態をあまり深刻に受け止めていない人もいます。これは若者だけでなく、他の世代の人にも言えることですが、事態はすべての人にとり深刻なのです。
 今社会に欠かせない機能を維持してくれているすべての人に、心から感謝の意を表します。それは、困難な状況下で勤務に当たっている医療関係者、保安・防衛・警察分野で働いている人、店の従業員、運転手をはじめとする大勢の人たちであり、また重い責任を背負っている関係当局に対してでもあります。
 危機的な時期に皆が結束することは、この国では自然なことです。今回はこの結束力を互いに距離を置いて示さなければなりません。この国に住むすべての人に想いを寄せ、希望と信頼と勇気を願っています。」
女王陛下のスピーチは、説得力があり、また感情のこもったもので、「これ以上強い国民へのアピールはないだろう。」とすべてのメディアがコメントを出しました。この会見で、デンマークがさらに一つにまとまったと感じた人は、少なくなかったでしょう。
その後も政府は、国会に議席を持つすべての政党党首と夜を徹して協議した上で、全党一致で次のような経済パッケージ第2弾を打ち出しました。(要約)
  • 今回のコロナ感染に対する政府措置のために、少なくとも30%の収益減が見込まれる自営業やフリーランサーなどに対して、予測される収益の75%(ただし月max.23.000クローネ(≒37万円)を国が保証する。(有効期間3月3日〜6月9日)
  • 小規模企業は、消費税および青色申告納税を2021年3月1日まで延期する。また中規模企業の消費税の納税は、2020年9月1日まで延期する。
  • 失業手当を3か月間延長する。(失業者は通常max.2年間失業手当が支給されるが、その期限が切れた場合でもあと3か月間は支給される。) 
  • 今回のコロナ関連措置に関係する国からの補助金、保証その他流動性は、現時点で合計約287.000.000.000クローネ(≒4兆6000億円)だが、状況変化により必要となれば、さらなる支援措置を取る。
  • デンマークとスウェーデン2か国で共同運航しているスカンジナビア航空(国の株保有率:スウェーデン14.8%、デンマーク14.2%、従業員総数約1万人)に対するデンマーク政府からの保証は10億クローネ(≒160億円)。今回SASデンマークは約4.000人の従業員を自宅待機させることを決定。
またこれまでに紹介したような政府の経済パッケージが実際に動き出すまでの間にも、経営困難状態に陥り、従業員解雇や倒産する企業が出る恐れがあるため、政府はすべての金融機関に対して、通常以上の緩和条件で経営困難企業に特別融資をするように要請し、金融業界もこれを了承しました。
デンマークの公的医療サービスを管轄する全国5つの行政区(リジョン)は、緊急体制が敷かれると同時に、退職した医療関係者や勉学中の医学生や看護学生などに緊急時の支援を呼びかけたところ、初めの2日間で約2500人から協力の申し出があり、現時点ではその数が約17000人にまで達しています。また全国医師連盟が退職した5000人以上の医師に協力を呼びかけたところ、何と1251人から協力したいという意思表示があったとのこと。現在関係当局や機関は、新設されたポータルに協力希望者を登録し、今後必要性が生じた時に協力を要請することになるようです。
3月23日最新の緊急記者会見で、フレデリクセン首相は、これまでに政府から出されたさまざまな緊急特別措置を、今年のイースターホリデー最終日(4月13日)まで延長することを発表しました。イースター祭はキリスト教文化圏ではクリスマスと同様に大きな行事で、5連休(学生は10連休)の期間に人びとは家族や友人と食事会を開いたり、海外旅行に出かけたりしますが、今年はそのどちらも禁止です。日頃の自由を奪われ、閉塞感を感じている人は多いはずです。でもこれも仕方ありません。皆で痛み分けです。
4月16日は女王陛下80歳の誕生日。女王陛下は、これまでにすべての祝賀行事をキャンセルすることを発表されていますが、数日前にフェースブックに“Denmark sings for the Queen”というグループが作られ、すでに10万人以上の人が登録したとのこと。当日正午、デンマーク全国いたる所で、多くの人たちが女王陛下の誕生日を祝って一斉に合唱する光景を思い浮かべると、何となく心が和みます。
3月24日現在のデンマークにおける感染状況(フェロー諸島、グリンランドを含む)
出所:デンマーク保健局
感染者数:1,577名
入院患者数:301名(うち重篤患者数:69名)
死亡者:32名