デンマーク・日本いろいろ 第20号
「デンマーク総選挙の結果に思うこと」
2019年7月
日本ではこの夏参議院選挙が実施され、投票日も間近に迫っていますが、デンマークでは一足早く、4年に1度の総選挙が6月に実施されましたので、今回はその結果をお知らせしたいと思います。
上段一番左が新首相のメテ・フレデリクセン。
上段一番右が市長経験者の文化・教会大臣ジョイ・モーゲンセン。
デンマークでは選挙権も被選挙権も18歳以上の成人に与えられている権利です。デンマークの議会は一院制で、国会議員の総数は175名+自治領であるグリーンランドとフェロー諸島代表4名合計179名です。前回2015年の総選挙の結果は、投票率が85.9%、女性国会議員の比率は37.5%、最年少議員は21歳、議員平均年齢は44歳でした。
今回の選挙は、長年続いた右派連立政権への批判や不満が増して来た中でおこなわれた選挙でしたので、政権交代も十分あり得る状況で、総選挙に対する国民の関心は一段と高まりを増していたように感じられました。ただ投票率は、以外にも84.6%に留まり、前回と比べ1.3ポイント低い結果に終わりました。とは言え、18歳以上の有権者の約85%が投票したわけで、これは日本ではまず考えられない数字だと思います。これだけ見ても、デンマークの国民が、いかに国の政治に関心を持っているかがうかがえます。3月には中学生の疑似選挙について書きましたが、やはり若い時から学校生活や日々の生活の中で民主主義について学び、選挙がどのような意味を持つものかを体験してみることが、成人になった時の政治に対する考え方に大きな影響力を持つことになると思います。
6月5日の投票日は偶然デンマークの憲法記念日で学校がお休みでしたが、通常デンマークの選挙は、平日(火曜日が多い)に行われます。これは、平日であれば、大半の人が通勤・通学で外出するので、その前または仕事帰りに投票場に立ち寄りやすいからなのだと思います。(投票場は地域の義務教育の公立学校で、当然投票場になる学校は当日休校になります。)デンマークでは、週末は家族で旅行したり、セカンドハウスで休養したり、好きなスポーツに熱中したり、パーティーを企画したりと、人それぞれ仕事以外の好きな事に時間を割きたいため、どうも選挙投票日には向かないようです。日本とは投票日の決め方も違いますね。
当日の午後、我が家には長女一家、次女一家全員が集合し、夕食は選挙投票日お決まりの皮付き豚ステーキにジャガイモ、パセリ入りホワイトソースという献立です。このメニューは「選挙豚ステーキ」とも呼ばれ、我が家だけでなくデンマークの多くの家庭の投票日メニューになっているようです。そして夕食後、大人たちはテレビの前に集まり、実況中継で伝えられてくる投票状況に見入ります。国民の最大関心事は、右派ブロック(青、5党)と左派ブロック(赤、5党)のどちらが、179議席中の過半数90議席以上を獲得するかにあります。
今回は第一党である社会民主党はじめ左派ブロックが96議席を獲得し、これまで政権を担当してきた右派ブロックは79議席と前回より大幅に後退したため(ブロック議席数は合計175議席で表示される)、政権交代が確実となりました。 真夜中にもなると、全国の選挙区集計結果がほぼ終わり、党首インタビューがおこなわれます。
翌日になれば、当選した議員の顔ぶれも決まり、最終投票率も発表されますが、今回は女性国会議員が前回より少し増えて40.2%となり、国会議員の平均年齢は、前回より少し高く45.75歳となりました。そして最年長議員は75歳の女性、最年少は24歳の女性という結果でした。
その後は、この選挙結果に基づき、各党が誰を首相候補に推薦するか、どの政党が政権を担当するか(単独内閣か連立内閣か、連立内閣の場合どの党が入閣するか)、各党の政策をどう調整して新政権の基本方針とするか等々が、党内部や党同士で話し合われることになるため、新政権が発足するまでにはかなり時間が掛かります。今回は、比較的早く最大議席を獲得した社会民主党の党首であるメテ・フレデリクセンという女性が首相になることが決まりましたが、組閣が正式に発表されるまでには約3週間掛かりました。
その結果、今回は社会民主党の単独内閣となり、6月27日にメテ・フレデリクセンが新閣僚を公表し、女王陛下の形式的な承認を経て、新政権が成立しました。彼女は、デンマークとしては2番目の女性首相であり、歴代首相の中で最も若い42歳(何と私の娘と同い年!)です。とは言え、これまで当選6回、以前には就労大臣、法務大臣も務めたことのある強者です。
ご参考までに、新政権の大臣は全部で20名、平均年齢は42.1歳(最年長56歳、最年少33歳、[30代9名、40代9名、50代2名])、女性は首相を含めて7名という顔ぶれで、しかもその女性大臣の一人(文化および教会大臣)は、これまで9年間市長として活躍し、現在妊娠中の39歳。この人選にはさすがにデンマーク国民も少々驚きましたが、これまでの彼女の政治実績から見て、大臣としても十分任務を果たしてくれるだろうという期待感が高まっています。
これからの国づくりは、さまざまな経験を積みながらも、エネルギー溢れる若い世代が中心となって進めて行くべきで、熟年者たちはそれを後方から支援するのがベストなのではないかと、今回の総選挙の結果を見てつくづく思いました。