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デンマーク・日本いろいろ 第14号
「年金制度と退職後の生活」B
 <退職後の生活>
2018年7月
日本には定年退職という言葉がありますが、定まった年=定年は、一体だれがどうして決めるのでしょうか? 多分皆さんは、そのような疑問を特に抱くことなく、そのまま受け入れていらっしゃるのだと思います。しかし「定年」という言葉が存在せず、そのような制度のない国に暮らしていますと、日本の定年退職制度に、多少の違和感を持つことがあります。
デンマークでは、多くの人が人生を3つに区切り、第1の人生(人間の成長期)、第2の人生(生産期)、そして第3の人生(人生総まとめの時期)と考えています。第2の人生に移行するのは、教育をどの段階まで受けて、いつ社会人になって働くかということですので、これは人によって大きく異なり、18歳頃かもしれませんし、30歳近くになるかもしれません。それと同じように、いつ第3の人生に移行するかは、その人がいつ退職するかであり、その時期は雇い主が決めるものではなく、あくまでも本人が決めることなので、人により年齢はまちまちです。ただ現在は、国民年金受給開始年齢が65歳で、私的年金は60歳から受け取り可能なので、60~65歳ぐらいで退職するのが一般的な傾向です。一般のサラリーマンの場合は、退職金が出ず、退職後は主に年金収入で家計を賄うことになるため、これは必然的な流れだといえるでしょう。
ただ近年は、退職する前の数年間、雇用者側と個人的に交渉して、勤務時間をこれまでより短縮して働く人が増えて来ています。これは、加齢によりフルタイム労働がハードになった、でもまだ働くエネルギーは残っているし、まだ仕事や職場に未練があるなど当事者個人の心境と、熟練スタッフが持っているノウハウを継続して活用したいという雇用者側の思惑がマッチした場合に可能で、どちらにとってもウィン・ウィンであれば交渉が成立します。日本であれば、定年制度がありますから、その年齢に達すると一旦退職し、その後は期間限定契約の非正規職員として働くケースが多いようですが、デンマークの場合は、これまでの雇用契約を打ち切るのではなく、内容を変更するだけなので、勤務時間こそ減って給与がその分低くなっても、労働条件が変わるわけではありません。第3の人生に向けてのソフトランディングは、当事者にとっても、社会的にもプラスでさえあれ、マイナスではないのです。
なお最近日本では、定年退職後に自分が培ってきた経験を活かし、別の職場に再就職して活躍するシニアが増え、これが少子高齢社会の新しい取り組みとして注目されているというニュースを耳にしました。少子化が急速に進んで若手人材確保が非常に難しくなって来ている日本企業の苦しい状況と、退職後の経済的理由や仕事への執着心から仕事を続けたい個人の希望がマッチして生まれた現象なので、これもウィン・ウィンなのだと思います。
デンマークでも、自分の経験を活かして、高齢になってからも、新たな職場でチャレンジしたいと考えるシニアが結構増えて来ているようで、高齢化が進む未来像としてこれを奨励・歓迎する傾向が見られますが、少なくとも年金収入だけでは生活が苦しいという経済的理由で再就職を希望するシニアは殆どいないでしょう。(前回号のデンマークの年金制度を参照して下さい。)
デンマークの大半のシニアは、退職を機に、これまでの仕事中心生活に終止符を打って、今までとは異なる新たな第3の人生を歩むことを希望しています。とはいえ、大半のデンマーク人は、第2の人生において、仕事と家庭の両立が社会保障システムの支援もあって可能ですし、この2つをやりくりしつつ、さらに、自分の趣味の時間や友人との交流の時間も大切にしているので(これは、あくまでも一般論ですが)、退職したからといって急に180度生活形態を変えてゼロから出発する必要はありません。仕事から解放されたことで、家族や友人と過ごす時間や趣味の時間を自分なりに十分持つことが出来るようになったわけで、もしこれだけでは物足りなければ、新しい活動にチャレンジしてみても良いわけです。
各コミュニティーには、趣味や教養を深めるための市民講座や公開大学、そしてシニアのためのアクティビティーセンター、さらには様々なボランティア活動など数えきれないほどの選択肢がありますから、自分のライフスタイルに合いそうな活動は、その中から必ず見つけることが出来るでしょう。新しい環境で、新しい人たちと交じり、新しいことを始めることは多少勇気がいるものですが、長い人生を自分で決めて来たデンマーク人シニアたちにとっては、さほど難しいことではないようです。(2017年1月の記事「デンマークにおけるシニアの冬の過ごし方」を参照して下さい。)
さらに近年、グループ海外旅行がデンマークでも人気を博していますが、ここでもシニアの参加率が非常に高い傾向が見られます。デンマーク社会省の調査によりますと、2000年〜2008年の期間の65歳〜74歳世代の可処分所得(自分で自由に使えるお金)の伸び率は73%で、15歳〜64歳世代の42%を大きく上回っているという結果が出ています。そしてシニアの旅行・余暇活動への消費が増え、薬など医療関連経費がある程度抑えられたともいわれています。
第2の人生を通して男女共に働き、高い税金を納め続け、私的年金を掛けてきた結果として、第3の人生で経済的な心配をせずに、自分のしたいことに時間を注ぐことが出来る(苦労が報われたと感じられる)ということは、当事者にとっても、社会にとっても、まさにウィン・ウィンの構図ではないでしょうか。少なくとも現在のデンマークでは、高齢者は社会の重荷ではなく、社会の貢献者と考えられているのです。
シリーズ@で引用した英国の作家サマセット・モームの言葉をここでもう一度。
「金だけが人生ではない。が、金が無い人生もまた人生とは言えない。十分な金が無ければ、人生の可能性のうち半分は締め出されてしまう。」
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