デンマーク・日本いろいろ 第4号
「カナダ旅行で垣間見たカナダ人シニアの暮らしぶり」
2016年10月
40年以上交際を続けてきたカナダ人友人との長年の約束がようやく叶い、今年8月、夫と共に3週間カナダを旅しました。カナダは何といっても大きな国。友人のアドバイスに従い、今回は、彼が住んでいるウォータルーという町を拠点に、トロント、オタワ、ナイアガラ、そして美しい大自然が広がる東北部のノバスコシア、赤毛のアンで知られるプリンス・エドワード島などを訪ねました。観光部分もかなり盛り沢山でしたが、私たちがこの旅で最も体験したかったことは、友人達との交流と、カナダ人の日常生活に触れることでした。
友人夫妻が住むウォータルーという町は、トロントから西に約130キロの距離で、人口約10万人の小都市ですが、ここには大学が2つあり、カナダ有数のIT産業が発達していて、カナダの通信機器メーカーのブラックベリー本社があります。元公務員教師の友人は、55歳で退職し、その後は旅行会社の契約社員として働くかたわら、好きな海外旅行を楽しんだり、町にあるホスピスや教会でのボランティア活動をしたり、友人や家族との親交を深めるなど、第3の人生を積極的に満喫している66歳。奥様も元教師で、こちらも50代後半で退職し、孫の世話や好きな パッチワークに専念しているヤングシニアです。
年金制度は、どこの国でもかなり複雑で、友人夫妻が何年間働き、どんな年金をどれだけ受給しているかは不明ですが、65歳前(それも50代で)退職しても、温水プール付き庭がある大きな家と2台の車を保持し、年何回も海外旅行を楽しめる優雅な生活が出来るだけの収入があることは確かです。公務員の年金待遇が良いとか、地方都市の家屋価格や生活費が安いことなどが、多分それを可能にしているのだろうと想像しますが、周囲のさまざまなタイプの人たちとも接した上でのざっくりとした印象は、総じて生活環境が豊かであることです。
隣国アメリカと似ているところは、高所得者への待遇が良いことだと思いますが、違うところは、「こと年金をはじめとする社会保障の分野では、自助努力を重視しつつも社会連帯意識が強く、社会的な安全ネットがそれなりに厚めに張られている。」* ことでしょうか。正直なところ、アメリカ(あるいは日本)とデンマークを足して2で割った国のように感じました。

 友人の計らいで、町のナーシングホームを見学しましたが、入居者ひとりひとりのQOLや生活習慣の継続が重視されていることが、ゆったりとした環境や利用者たちの様子からうかがい知ることができ、スタッフの話からも、北欧型ケアを目指していることが感じられました。ただ、まだ施設的な雰囲気はかなり色濃く残っており、建物全体や居室の設計などは、デンマークの30年ほど前のナーシングホームに近いように思われました。このホーム見学で一番印象深かったことは、地域のボランティア団体がホーム内に事務所を構え、相当数の市民ボランティアが、専属スタッフに交じって、当番制で入居者へのさまざまな支援活動に当たっていることです。デンマークでも、今ではボランティアがシニアの生活支援分野でかなり積極的に活動していますが、プロの領域を絶対侵さない範疇で支援するという、はっきりした線引きがあります。その点、カナダでは、ボランティアの活動範囲がそれ以上に広いようで、キリスト教を基盤とする地域慈善活動の伝統が、今でも息付いていることを強く感じました。また同じ敷地内には自立型高齢者住宅もあり、ここでは必要な在宅ケアを受けながらも、一般の集合住宅と同じように、個人の自由な生活が継続出来る仕組みになっているようでした。
近年カナダも高齢化率が徐々に高まり(15年統計16.13%)、施設ケアから在宅ケア重視政策へと変換しつつあるようですが、退職後の暮らし方の選択肢の1つとして、シニアヴィレッジへの移住を選ぶ人が結構いると聞きました。そこで、友人に案内してもらい、町にある比較的価格が安い所、中流層向けの所、富裕層向けの所3か所を急ぎ足で訪ねました。どのヴィレッジにも共通していることは、民間経営であり、住宅(ほぼバリアフリー)購入は完全に個人の自由意志で、敷地内にはシニアのニーズを満たす活動の場などさまざまな工夫が施されていることでしょうか。富裕層向けの所では、モデルハウスを見学することが出来ましたが、150u以上の広々とした家の内装は、まさにゴージャスの一言に尽きるものでした。元管理職レベルであれば、このような暮らしも夢ではないとのことです。
さらに友人がボランティアとして通っているホスピスにも立ち寄りましたが、ここはNPO組織が運営しているセンターで、当然専門スタッフもいますが、ここでも受付係から食堂スタッフに至るまで、多くのボランティアが交代で働いており、さらに患者や家族とのコミュニケーションとメンタルケアにも関わっているとのこと。そしてボランティアの多くは、以前この施設に入居していた患者の家族であるとのことでした。
今回の3週間の旅では、カナダの限られた地域、限られた部分しか体験しませんでしたので、そこで見聞きしたことを材料に、カナダはこうだ、ああだと決めつけることは出来ませんが、国民各自の自助努力・社会連帯精神・地域ボランティア活動などが、この国の豊かさを支えているように感じました。そして、今回の旅の最大のお土産は、同世代のいきいきカナダ人シニアの暮らしに直接触れられたこと。彼らとの再会を約束して、帰途に付きました。
*「カナダの年金制度」一橋大学 高山憲之筆