<クールケーションとは?>
皆さんは、「クールケーション」という言葉をご存知ですか? これは、「COOL=涼しい」と「VACATION=休暇」を組み合わせた造語で、特に夏季の暑さを避け、涼しくて過ごしやすい国や地域で休暇を楽しむことを意味します。 そしてこのキャッチフレーズは、アメリカの大手旅行誌Conde Nast Traveler(コンデ・ナスト・トラベラー)が2024年の旅のトレンド予想のひとつとして挙げたことから注目されるようになったようです。
日本には、「避暑」という同じような意味あいの言葉があり、夏の暑さを避けて涼しい地域で休養する・休暇を取ることは、以前から多くの人がしていたことなので、いまさらクールケーションという新しい言葉を使う必要はないのかもしれません。
日本の避暑地として知られる所といえば、私の頭には、真っ先に長野県の軽井沢が浮かびます。 それは、父方の祖父が中軽井沢に別荘を持っていたので、子どもの頃は、多くの従妹たちとともに、毎年ここで夏休みを過ごした思い出深い地だからです。
聞くところによると、軽井沢は、1886年にカナダ人牧師により見出され、当初は多くの在日外国人が避暑地として利用していたようですが、その後財力のある日本人が別荘を建て、さらに地域が拡大されて、一般人の別荘やリゾートホテルが建てられ、現在もなお、首都圏から気軽に行ける避暑地の王道として人気が衰えることはないようです。
このほかにも、北海道や富士五湖周辺、那須高原、奥日光等々、さらに数日前のネットでは、草津温泉が今若者にも大人気のクールケーション目的地になっていると紹介されていました。 猛暑日や酷暑日が年々増加している日本の厳しい夏。 今後ますますクールケーション観光が、これまで以上に注目されることになるのかもしれません。
<ヨーロッパにおける今夏の熱波の影響>
では、ヨーロッパではどんな状況かといいますと、すでにお聞き及びと思いますが、近年の地球温暖化は、ヨーロッパにも大きな影響を与えており、特に今年は、7月に発生した熱波で、スペイン・ポルトガル・フランス・イタリアなどの南欧諸国で、大規模な山火事発生、40℃を超える酷暑日、干ばつでライン川やドナウ川などの主要河川水位が過去最低まで下がるなど、自然・人身・産業経済のあらゆる分野で多大な被害が発生しました。
<ヨーロッパにおける夏休み大移動に逆現象が発生?>
ひと昔前までは、夏休みやクリスマス休暇になると、デンマークをはじめとする北欧諸国の多くの人たちは、さんさんと照り付ける太陽や暖かい気候を求めて、南フランス・スペイン・イタリア・ギリシア・地中海の島々などへと一斉に出かけ、せっせと日光浴をして肌を小麦色に焼くことが、最高のバケーションだと考えていました。 特に学校が夏休みになる6月下旬から7月にかけては、ヨーロッパ大陸を南へ移動する自動車やキャンピングカーの流れが絶えませんでした。
またデンマークの大手旅行会社のSpies Rejser(スピース・ライサ)は、今から半世紀以上前から、地中海に浮かぶマジョルカ島を皮切りに、これら人気リゾート地へどんどんチャーター便を飛ばして、一般庶民でも気軽に太陽を求めて海外へバカンスに出かけることが可能となりました。
実は、この現象が、最近の温暖化の影響を受けて、大きく変わろうとしているようなのです。 ここで、最初に触れた、「クールケーション」という言葉が聞かれるようになってきたわけです。 つまり、以前バケーションといえば、太陽を求めてヨーロッパの北から南へ移動する流れが強かったものが、ここにきて、涼を求めて南から北へ移動する流れが強まり、逆流現象が見られるようになってきたのです。
<デンマークをはじめとする北欧諸国の観光ブーム>
デンマークの首都コペンハーゲンは、以前から海外旅行者に人気の観光地として知られており、一時は、ツアー旅行の日本人観光客で溢れていたこともありました。 ただバブル崩壊後、そして円安が長引く昨今は、日本人観光客の姿は殆ど消え、それに代わって、近年は、アジア系なら圧倒的に中国人、次いで韓国、タイ、シンガポール辺りからの観光客などが目立っています。
これはクールケーションとは直接関係ない現象だと思いますが、数日前、用事がてら久しぶりにコペンハーゲン市街に出向いたところ、市内の観光スポットで一番目立ったのは、アジア系観光客ではなく、イタリア語やスペイン語やフランス語を話す欧州系ツアー客や個人客でした。 まさにこれが、クールケーション現象だと思います。 デンマークの日刊新聞Berlingskeの記事によると、これは首都コペンハーゲンに限った現象ではなく、デンマーク各地のキャンピング場や地方の島や海岸などのホテル・貸別荘などでも、オランダ・ベルギー・ドイツ・フランス・イタリア・スペイン・ポルトガルといった国々からの来訪が大幅に増加したという報告が寄せられています。 ただこれは、海外旅行者だけの現象ではなく、実は多くのデンマーク人も、今年の夏休みは、何も暑すぎる南欧まで無理して遠出せずに、国内で快適に過ごそうという傾向が強かったようです。
コペンハーゲン市内の観光スポット「ニューハウン」で出会った南欧系観光客
今年の6月〜8月のデンマークの気温は、平均20℃前後で、6月末と7月上旬に30℃近くまで上昇した日が数日ありましたが、その数日を除けば、エアコン設備や扇風機がない一般家庭でも特に困ることはありませんでした。 猛暑日の多い国や地域の方たちにとっては、羨ましい気候といえるでしょう。
<ノルウェーの旅で感じたこと>
私たち夫婦は、今夏8月に以前から計画していたノルウェーの旅を実行しました。 その目的は、クールケーションではなく、約半世紀前に私が母とともに訪れたノルウェー各地をもう一度辿ってみたくなったためなのですが、首都オスロでも、そこから鉄道でノルウェーの高地を7時間にわたり旅した時も、また第二の都市・港町ベルゲンやフィヨルドツアーでも、今振り返えれば、南欧からの観光客が圧倒的に多かったように思います。
今回ノルウェーのフィヨルドや高原を旅して感じたことは、半世紀前に訪れた時は、夏でもかなり残雪が見られたように記憶しているのですが、今回は殆ど残雪が見られなかったことです。
デンマーク気象庁の報告によると、デンマーク自治領のグリーンランドでは、最近1年間(2025/2026)で、約1730億トンに相当する氷床(ice sheet)が溶けたとのこと。 気が遠くなるような数量の氷が年々失われているわけですが、先月下旬にネパールの中国国境付近で発生した大規模な土石流災害も、ヒマラヤの氷河の一部が決壊したことが原因といわれています。
クールケーションの現象は、それはそれで、現在の気候変動に適応したものなのだと思いますが、温暖化現象が、寒冷地で最も激しく起きているという事実は、避けて通れない地球全体の深刻な問題であり、この先どうなるか分からないだけに、考えただけで寒気を催してしまいます。