デンマーク・日本いろいろ 第53号
長らくのご無沙汰
2026年06月
<長らくのご無沙汰>
2025年1月20日、ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任してからというもの、世界情勢はまたたく間に激変し、世界地図が大きく塗り替えられたように思われます。そして4年前2022年春に勃発したロシアによるウクライナ侵攻は、未だに解決の道が見出せずに交戦が続いており、その後のイスラエルによるガザ襲撃、さらにアメリカとイスラエルによるイランへの大規模な軍事攻撃とそれによるホルムズ海峡閉鎖、中東諸国からの石油輸出ストップと、連鎖反応的に世界各地に火の粉が降りかかり、先行きが読めない情勢が続いています。
EUおよびNATOの加盟国であるデンマークは、これらの世界情勢に影響を受けないはずはありません。しかも今年1月には、アメリカ大統領がデンマークの自治領であるグリーンランドの領有・支配権をまたしても要求してきたことで(トランプ一次政権でも購入しようとした)、一時国内外が騒然としたことは、日本でも報道されたのでご記憶のことと思います。
このような不安定要素に満ちた世界情勢の中で、デンマークがこれまでにどのような行動を取ってきたかについては、これから少しずつお伝えしていきたいと思いますが、これまでの1年間は、とにかく怒涛の渦中にいる感じで、正直なところ、とても記事を書こうという気持ちは湧きませんでした。
<その間、私は何をしていたか?>
その間何をしていたかといいますと、実は、長年温めていた自分史をこの機にまとめてみようと考え、まずデータ収集を半年間おこなった上で、昨年1年かけて、これを完成させました。今日本では、自分史を残そうという機運がシニア世代の間で高まっているようですが、これはデンマークも同様で、自分史作成のノウハウを学ぶセミナーが大盛況です。
ただ私の場合は、「デンマークに半世紀以上暮らす日本人」という立場で、日本人であると同時にデンマークに住む市民という二重のアイデンティティを兼ね持っているので、いろいろ考えた末、一番身近な私のデンマークの家族たちに向けてデンマーク語で残すことにしました。
デンマークの家族たちは、日本の親族祖先のことや私の生い立ち、さらにデンマークに移り住むに至るまでの経緯、そして家庭を築いてからも、頻繁に来日して日本で実施してきたいろいろな仕事のこと、日本向けの本執筆のことなど、私のこれまでの人生について、知っているようでいて、むしろ知らないことの方が多く、この知らない部分を今のうちに書き残しておくことが、私の最優先プロジェクトだと考えたわけです。75歳の節目の年にこれを何とかやり遂げることができて、今ほっと一息付いているところですが、想像していた以上にエネルギーを消耗する作業だったと感じています。でもやって良かったと、つくづく思っており、同世代の皆さんには是非お勧めしたいプロジェクトです。それも、体力気力がまだあるうちに着手されることをお勧めします。
右が本、左は本に掲載しきれなかった資料をまとめた付録 表紙の写真は、4歳時の著者
<総選挙から組閣決定までの長い道のり>
2022年秋、デンマークの国会(Folketinget、一院制)が解散され、11月に国政選挙がおこなわれ、その後12の政党が話し合い・交渉を続けて、45日後にようやく大連立内閣が成立したことは、すでにこのコラムの41号(2022年12月)で詳しくお伝えしました。
4年後の今年が総選挙の年で、不安な世界情勢が続く中、メテ・フレデリクセン首相がどのタイミングでこれを実施するかが注目されていました。そのタイミングは思ったより早く、例のグリーンランドにまつわる問題が一旦沈静化した3月にやってきました。
今回の解散の大義名分は、敢えていえば、「不安な世界情勢の中、デンマークはどう進むべきか」を国民に問うものであったと思います。これに対して国民は、大連立内閣[左派の社会民主党(Socialdemokratiet)+右派の自由党(Venstre)+中道派の穏健党(Moderaterne)]がこれまでおこなってきた政策を大いに評価するグループと、政策に不満を抱き、左右両派の野党政党を支持するグループに拡散されました。そのため、選挙結果は、政権を担ってきた3党がみな議席を減らし、両ブロックが拮抗する形(左派48%、右派44%、中道8%)となりました。こうなると、大連立には戻れない、左右どちらかのブロックで組閣するのも難しい、中道派の小さな穏健党が鍵を握ることになるかなど、さまざまな憶測が飛び交い、見解が少しずつ異なる12の政党をどう組み合わせたら国民に納得してもらえる政権を築けるだろうか、とまるでジグソーパズルのような有様になりました。
デンマークには、選挙後の組閣にあたり、国王が指名するKongelige undersøgerと呼ばれるいわば組閣交渉人を立て、この人が中心となって、各政党との話し合が持たれ、次期政権を交渉で決めていく伝統があります。国王指名といっても、これは形式的なもので、国会議員の中で最適と思われる人が引き受け、通常は、最大政党の党首や元首相が担いますが、そうでない場合もあり得ます。
今回は、メテ首相代理がまずその役に就き、交渉が始まりました。この話し合いにはメディアは立ち入ることが出来ず、各党のリーダーたちが本音で自由に語り合う時間が流れます。今回もかなり長引くだろうと予測されていたものの、前回の45日を過ぎても一向にまとまる気配は見られません。結局メテ首相代理による交渉は決着が付かず、今度は右派自由党の党首が組閣交渉人に指名され、2週間期間限定で右派諸党による可能性が模索されました。
ただ、これも中道派の穏健党を取り入れられず失敗に終わりました。そのため再度メテ首相代理にバトンが渡され、さらに2週間近く交渉が進められた結果、選挙からなんと70日経過した6月はじめに、ようやく内閣が成立しました。その構成は、今回の選挙で議席を伸ばした左派の社会主義人民党(Socialistisk Folkeparti)、社会民主党、急進左派党(Radikal Venstre、といっても中道左派)そして鍵を握っていた中道の穏健党の4党による連立内閣です。
日本であれば、「空白期間が長引けば国政に支障をきたし、国民に申し訳ない」といった理由で、スピード感をもって組閣作業を進めると思います。まあそれも一理ありますが、今後国が進むべき道を、国会に議席を持つすべての党が対話に加わり検討を重ねながら探っていくデンマーク式プロセスは、たとえ空白期間が多少生じても、中長期的に見れば、正道のように思われます。「急いては事をし損ずる」といったところでしょうか。
最期に、今回の選挙結果と内閣を数値で見ると、次のようになります。
選挙投票率:84%(前回は86.2%)
国会議員の平均年齢:43.92歳、最年長72歳、最年少24歳(20代は179名中14名)
女性議員の占める割合:48%(前回は42.9%)
内閣: 首相 メテ・フレデリクセン 49歳 三期目
     大臣21名(前回25名) 平均年齢 47歳
     大臣の男女比 女性大臣11名 男性大臣10名(女性過半数は史上初!)
70日間の交渉を終えて内閣成立を発表する4党の党首たち。
左から急進左派党首(産業・競争力大臣)、社会主義人民党首(経済・内務大臣)
社会民主党首(首相)、穏健党首(外務大臣)
(出所:2026年6月3日付 日刊新聞Berlingske)