デンマーク・日本いろいろ 第19号
「日本の新天皇即位のニュース」
2019年5月
5月に入り、デンマークにも新緑の美しい季節がやってきました。今春日本で美しい桜を愛でる機会を持てましたが、当地ではそれより少し遅れて、4月中旬過ぎから桜をはじめとする春の花が一斉に開花し、今でも濃いピンク色の八重桜が家々の庭を華やかに飾っています。
日本では、4月30日の平成天皇退位、5月1日の新天皇即位にともない、例年のゴールデンウィークが、前代未聞の10連休にまで拡張され、休暇を取れた人たちの移動と行楽による混雑、また休暇を取れなかった人たちの平常以上の忙しさが日本のメディアで毎日のように報道されました。
海外(少なくとも欧米諸国)では、日本人は「働きバチのようによく働く国民」というイメージが未だに根強いため、10日間もの長い休日をいったい日本人はどうやって過ごすのだろう、というようなニュアンスのメディアの受け止めが多かったようです。ただこれ自体は新聞記事になるほどのニュース性はなく、ラジオやテレビで簡単にコメントされる程度のものでしたが、日本中が近年になく祝賀ムードで大いに盛り上がり、連日テレビで特別番組が組まれた天皇退位・即位のニュースは、当然ここデンマークでも、かなり関心を持って報道されました。
デンマークの5月1日付け日刊新聞Berlingskeに掲載された記事(タイトルと趣旨)は、以下のようなものでした。

「日本の天皇即位の儀式に出席できた女性はたった一人」
125代にわたり継承されてきた日本の天皇制は21世紀の新時代を迎えたが、その絵図の中には未だに女性は入れない。 今日皇居で行われた天皇即位の儀式は、近現代においてはじめて一人の女性が出席したという点で、歴史を塗り替えることになったが、皇室に嫁がれて26年になる新皇后となられた雅子様は、即位の式典に臨席することは許されなかった。・・・このことは、日本の皇室ひいては日本社会一般において、女性が劣勢の立場にあることを物語っている。・・・・日本国内でもこれまでに皇位継承についてさまざまな議論がなされ、女性天皇もあって良いのではないかという世論もあるが、保守派の日本人は、これまでの伝統を守ることの重要性から男系男子のみの継承をしばしば正当化してきている。・・・・ある専門家は、新皇后を夫である天皇の最も重要な即位の式典に出席させないという事実は、日本の男女平等を推進させる試みに反するものと指摘。また京都大学のコミュニケーション専門教授のNancy Snow氏は、「このことが海外でどう受け止められるかが忘れられています。閣僚の中に一人の女性が見受けられるが、新皇后はどこにおられるのか、という疑問が今後も残されたままになります。」と語る。
この記事は、The New York Timesに掲載された記事の翻訳版ですが、新天皇即位に対する海外の最大関心事は、多分この記事から読み取れるように、日本(皇室)における女性の地位の低さという点であるようです。
デンマークはヨーロッパ最古の王室ですが、実はこの国でも、過去に数回王位継承問題が持ち上がり、社会が大いに揺れた時期がありました。それは1940年~50年代、前国王フレデリック9世(1899-1972)の時代でした。デンマークでは、長年王位継承は男子という伝統がありましたが、フレデリック9世には3人の娘がおり、弟君には男子が誕生していたので、伝統に従えば、弟君の家系が王位を継承することになるはずでした。しかし当時は、国民からの高い信頼を受けていた国王の直系が継承することを望む声が強く、憲法および王位継承法の改正の気運が高まりました。デンマークでは、憲法改正には、国会での決議後に国民投票をおこない、投票した人の過半数のみならず、全有権者の40%以上の賛成が必要で、それに達した場合、さらに国会で再度議決する必要があるという厳しい条件が課せられています。この厳しい条件の下、まず1953年に憲法および王位継承法が改正され、ここでは、国王の直系に男子がいる場合は男子が継承し、直系男子がいない場合は、女子が継承できることになりました。これにより、フレデリック9世の長女マルガレーテ王女が1972年王位を継承し、マルガレーテ2世女王が生まれたのです。その後長男フレデリック皇太子が結婚され、皇太子妃が妊娠されたのをきっかけに、再度王位継承問題が国会で議論され、2009年に前回同様の条件で国民投票が行われ、投票者の85.4%、全有権者の45.2%の賛成を得て、この時は王位継承法のみが改正されました。それ以降は性別にかかわらず直系第1子が王位を継承することとなり、この問題は落着しました。
これと同じような動きは隣国スウェーデンでも起こり、現在は男性国王ですが、次期王位継承者は、第2子が男子であるにもかかわらず、第1子の長女が女王になることが既に決まっています。現在では、どちらの国の国民も、国の象徴の性別を問題視する人はおらず、直系第1子が王位を継承するのが最も自然な流れだと捉えているようです。
共同通信社が5月1+2両日実施した全国緊急電話世論調査では、即位された天皇陛下に「親しみを感じる」と回答した人が82.5%、女性継承賛成は79.6%であったという報道を目にしました。令和の時代に入った今、また何らかの世論の動きが日本でも起こることになるのでしょうか。少なくとも海外では、皇位継承という視点からも、今後の日本の動きに注目して行くことでしょう。