デンマーク・日本いろいろ 第18号
「中学生の疑似選挙体験」
2019年3月
デンマークの義務教育は現在10年間で、小中学校が一貫制になっています。
つまり、どこの学校も0学年〜9学年まであり、さらに10学年まで設置している学校も各市に1校ほどあります。0学年とは聞きなれない言葉かもしれませんが、これは、以前から学校に設けられていた「幼稚園組」(5〜6歳の子どもが学校のリズムに慣れるためのクラスで、ここから始める児童が以前から多かった)が義務教育に組み入れられ、既成学年の数字を変更できないために0学年と名付けられることになりました。また10学年は義務教育ではなく、9学年で卒業し、中等教育(高校または職業専門学校)へ進む若者が大半を占めています。以上のように、デンマークの義務教育制度は日本と異なりますが、日本で言うところの中学生は、こちらでは7〜9学年で、年齢は14〜16歳になります。
デンマークでは、2015年から2年に1度、14〜17歳の生徒を対象とする全国的な疑似選挙を実施しており、今年も1月に3回目の疑似選挙が実施されました。これは、国会と文科省がデンマーク青少年協議会(Dansk Ungdoms Fællesråd、青少年のための75団体で構成される総括組織)と連携して実施しているもので、今回の疑似選挙には、全国約850の学校、8万人以上の生徒が参加しました。この目的は、一般選挙と同じような選挙活動から投票までのプロセスを実際に体験することで、未成年の若者たちが政治に関心を持ち、民主主義とは何かを学び、また民主主義社会に参画することの意義を認識することにあります。
投票用紙を手にする中学生 撮影者:Natasha Hougaard 提供:国営放送局(DR)
デンマークには、民主主義は学校の教科書から学ぶものではなく、学校生活や市民生活を通じて学ぶものだという考え方が以前から根強くあり、どこの学校でも生徒会長や理事会(保護者・教職員・生徒代表で構成される最高執行機関)の生徒代表を選挙形式で選出していますし、全国の中学生代表が年1回疑似国会を開いて1日議員体験することもおこなわれて来ました。ただ近年若年層の選挙投票率が低下する傾向にあるため、より多くの若者にインパクトの強い政治体験の場を提供しようということで、ここにご紹介するような疑似選挙が始まったようです。
1月13日ラスムセン首相が疑似選挙を告示し、いよいよ3週間の選挙活動が始まりました。参加する学校では、この期間中にいくつかの授業にこれを組み入れて、さまざまなプロセスを学習して行くことになりますが、まずはじめに、今回掲げられた24の政治的関心事項の中から最も関心のあるテーマを3つ選択し、テーマ毎に選挙キャンペーンを企画し、ソーシャルメディア等を利用して多くの人に知ってもらうための啓蒙活動を行います。そして約10日後、国会に議席を有する全政党の若手政党員(国会議員ではない)が540の学校を訪問し、約55,000人の生徒たちは、政党員が選択した3つのテーマに関する各政党の見解を聞いた上で、ディベートをおこないます。また同日、国会議事堂にも200人の生徒代表と各政党の若手政党員が集まり、本当の国会さながらにディベートがおこなわれ、これがテレビ中継やその他のメディアで全国に発信されます。疑似選挙に参加する生徒たちは、これらのディベートを通して、一人一人どの政党が自分の意見に最も近いかを見極めます。
そしていよいよ疑似選挙最終日の1月31日、参加校には本当の選挙と同じように、投票場・投票箱が設けられ、各生徒は事前に配布された投票用紙に政党名を記入して投票します。各校の投票結果は、国会議事堂に設けられた集計場に集められ、同夜1時間かけて投票経過がテレビ実況放送され、結果が出た時点で選挙終了のパーティーが開かれました。デンマークでは、総選挙は一種のお祭りのようなもので、投票日の夜には家族や友人達が集まって夕食を共にし、テレビの実況中継を見守りながら、わいわい政治論議を交わすのが伝統行事になっていますので、若者たちにも、それに似た体験を味わってもらったわけです。
疑似選挙最終日、学校に設置された投票場風景 撮影者:Natasha Hougaard 提供:国営放送局(DR)
ちなみに今回掲げられた24の政治的関心事項(テーマ)の中で最も関心が高かったのは、@公立学校の授業時間削減(12.7%)、A暴力や暴行の刑罰を重くする(11.9%)、Bタバコの課税率を上げる(10.6%)、C安楽死を法律で認める(7.8%)、D宿題をなくす(6.9%)でした。また全国の投票結果は、右派系政党6党が51.2%、左派系政党5党が48.8%となり、最も投票率が高かった政党は、社会民主党(左派)22.8%でした。
今回の疑似選挙に参加した生徒たちの感想は、今まで全く知らなかった、関心がなかった政党政治や選挙のプロセスが良く学べた、政治に関心が持てるようになった、大きくなったら政治家になって住みやすい社会を作りたい等さまざまでしたが、これを若い時に体験するとしないでは、大人になってからの生き方に何らかの違いが出てくるのではないでしょうか。
今年は4年に一度の総選挙の年。デンマークでは選挙権も被選挙権も18歳以上の成人に与えられている権利です。前回2015年の総選挙の結果は、投票率85.9%、女性国会議員37.5%、最年少議員は21歳、議員平均年齢は44歳でした。さて、今年の総選挙結果は、はたしてどう出るでしょうか。