デンマーク・日本いろいろ 第16号
「デンマークのご近所づきあい」
2018年8月
8月も半ば過ぎ。デンマークでは、学校の新学期が始まり、大人たちもバカンスから戻り、いつもの日常生活が戻って来ました。そんなある週末、私が住んでいる通りでは、恒例の「ストリート・パーティー」が開催されました。
これは、同じ通りに暮らす住民で組織している組合が、25年以上前から毎年いつもこの時期に実施しているもので、古い住民から引っ越してきたばかりの新しい住民まで、老若男女が集う楽しいパーティーです。私たちは、25年間暮らしていた家を売却して3年前にこの通りに引っ越して来たので、まだ3回目の参加ですが、近年引っ越してきた大半の世帯は、小さな子どものいる若いファミリーで、通りの若返り現象が起きているようです。
さてこのパーティーは、毎年実行委員に選ばれた世帯がプログラムを企画することになっており、参加費は大人一人2500円、ティーンエージャー1300円、12歳以下1000円で、委員会が子供用バーガーと大人用バーベキュー肉・ソーセージを参加者に提供するほか、各種飲み物が買えるバーを用意し、参加者は、各自の食器と椅子、さらに思い思いの副食(サラダやパスタなど)を持ち寄ることになっています。
そして当日昼12時から夜24時の時間帯は、地元警察の許可を得て通りの一部を通行止めにし、通りの中央に大きなテントを設置して会場スペースを確保します。今年のプログラムは、14時:子どもたちのためのゲームや競争、16時:ワインとカクテル・テイスティング、18時:パーティー開始・食事会、20時:ホームメイドのケーキ品評会と試食、その後:懇談+ダンスパーティーでした。
この催しへの参加は当然自由ですし、出席する時間帯も自由ですが、普段仕事に子育て、そしてさまざまな活動に忙しい住民は、ご近所の人たちと交流する機会が殆どありません。そのためこのような催しに参加して顔見知りを作り、情報交換することは大切だと考えている人が多いようで、今年もおそらく25世帯以上、約75名が参加したと思われます。
その中でも60+のシニアたちは、このパーティーとは別に、同世代住民だけの集いの会を作り、こちらも年一回持ち回り制で夕食会を実施して交流を深めており、さらに、組合長のアイデアで購入した中古除雪車で、冬の期間中、雪が降った朝の歩道雪掻きボランティアなどもおこなっています。
このような同じ通りに暮らす住民のパーティーや活動は、必ずしもどこでもおこなわれているわけではありませんが、デンマークでは決して珍しい光景ではないようです。ただこれを発足させ、さらに長く継続させるためには、イニシアティブを取る世話好きなまとめ役が必要です。デンマーク人は、仲間との集い・パーティー・ディスカッションが大好きである上、いろいろと理由を見つけては組織を作りたがる国民性があるので、まとめ役を見つけることはさほど困難ではないようです。
私たちが以前25年間住んでいた通りでも、入居当初2年ほどストリート・パーティーがおこなわれていましたが、その後なぜか消滅してしまいました。その代わりではありませんが、我が家がイニシアティブを取り、犬の散歩などでよく顔を合わせて挨拶や立ち話をしていた通りのご近所10世帯夫婦に声を掛けて、2000年にグルメ会を立ち上げました。これは、年5回平日の夕方にメンバーが集まり、参加者を3チームに分けて、前菜・メイン・デザート3品を全員で作ってから一緒に味わい楽しく懇談するという会で、18年経過した現在も続いています。私たち夫婦は3年前に転居したので正会員ではなくなりましたが、元会長なので今でも特別会員として参加しており、お付き合いが続いています。
この間に亡くなった人、転居した世帯、新しくメンバーに加わった世帯など顔ぶれは多少変わりましたが、メンバー間の絆や信頼感は強く、グルメ会食以外の助け合い(情報交換、長期留守中の郵便物管理や見守り、悩みごと相談など)がさまざまな形でおこなわれて来ました。夫が会長をしていた頃は、ご近所メンバー数軒の鍵まで預かされ、まるで通りの管理人さんのような役割まで果たしていました。家の合鍵をご近所に預けるということは、よほど強い信頼関係がなければ出来ないことなので、これは、デンマークでもかなり珍しいことだと思います。ただこのような関係のご近所づきあいは、普段はお互いに干渉せずとも、いざという時にすぐ手を貸してくれる人がいるという安心感を生み、非常に心強いものです。
3年前に現住所に引っ越して来た時、私たちはデンマークの風習に従って、親戚や友人たちを新居に招いてハウスウォーミングパーティーを開きました。この時私たちは、これからお世話になると思われるご近所(お向かい+両どなり3世帯)の方たちも招待しました。多分ご近所の方たちは、どんな家族がやって来て、新居がどんな感じなのか好奇心もあったと思います。そして私たちも自らオープンにすることで、一度にご近所づきあいの良いスタートを切ることが出来、今では、留守中の見守りやちょっとした手助けなどを自然体でおこなえる関係が生まれています。
よく「遠い親戚より近くの他人」などと言いますが、否応なしに毎日一番距離的に近くにいるご近所さんとのおつきあいは、一日で築けるものではありませんし、相互関係は受け身の姿勢では築けません。日本には、町内会という組織があり(これはデンマークにはありません)、村祭りなど伝統的な地域行事(これもデンマークには殆ど残っていません)を通じての繋がりもありますが、反面、都会の集合住宅などで起きる孤独死など隣人との疎遠関係も頻繁に聞かれます。
近隣の人たちとのつきあいは、国・地域によりかなり異なって当然ですが、良い関係を築くことは、どこにいても大切なことではないでしょうか。特にシニア世代の仲間入りをした今、そのことの大切さを強く感じています。