デンマーク・日本いろいろ 第6号
「デンマークにおけるシニアの冬の過ごし方」
2017年1月
今は寒の内。この時期デンマークの平均気温は零度±5度前後で、さらに緯度が高いデンマークの冬季日照時間は短く(1月中旬で日の出朝8時半頃、日の入り午後4時頃)、寒く暗い季節はまだまだ続きます。北欧に40年以上住んでいる私が、今でも馴染めないと感じているのは、冬の寒さではなく暗さです。デンマーク人ですらうつ病に掛かりやすくなるこの冬の暗さは、日出ずる国日本から来た者には、受け入れ難いレベルなのです。
ではこんな冬の季節、デンマークのシニアたちは、どう過ごしているのでしょうか?勿論人さまざまですが、多くのシニアたちがこの時期特に活発にやっていることは、「趣味と学び」を深めることではないかと思います。

 各自治体に設置されているシニア向けアクティビティーセンターは、その地域に住んでいる60歳以上の市民または年金受給者が自由に利用できるセンターですが、そこでおこなわれているアクティビティーは、体操、外国語、コンピューター、読書、各種手工芸、絵画、コーラス、ダンス、ブリッジなどシニアが好みそうな多岐にわたる趣味の活動が主流を占めており、このほかにも年間を通じて、小旅行、講演会、音楽会、パーティー、バザー、ビンゴゲームなどの催しも企画されています。どこのセンターも、ほぼ年間通じて平日利用できるようになっていますが、デンマークが明るく美しい季節となる5月から9月上旬の約半年間は、屋外活動やバカンスに出掛ける人が多くなり、センターの活動はおのずと下火になります。反面、9月半ば過ぎ頃から4月までの期間は、利用者がぐっと増えてセンターは活気づきます。
自治体によりセンターの運営方法は多少異なりますが、私が頻繁に訪問するいくつかのセンターでは、市の職員は1~2名程度で、土地や建物の維持費は市が負担していますが、活動そのものは、すべて利用者で組織される理事会が中心となって運営されています。ほとんどの所は会員制にして、ごく少額の会費を利用者が支払っていますが、クラブ活動への参加は無償(ただし材料費は個人負担)で、「この指止まれ」形式で生まれ、ほとんどの活動の責任者(あるいは指導者)は、それを得意とするシニア利用者が担当しています。さらに諸々の行事や催し物は、担当委員会のボランティアメンバーが企画運営し、赤字を出さないように、参加希望者にチケットを販売して経費を賄う方法が取られています。つまり市は、シニア市民たちの居場所を提供していますが、中身は、利用者が協力し合って埋めることになります。これが、デンマークで普及している利用者=ボランティアの構造です。アクティビティーセンターに集うシニア市民は、自分たちのニーズに合う各種活動を立ち上げ、選択し、参加することが出来るわけですが、ただお昼を食べに来るだけでもよし、好きな活動に参加して仲間と交流するもよし、自分の経験や専門/得意分野を活かして教室・クラブ活動で指導するもよし、センターの清掃やカフェテリアなどの仕事を当番制ボランティアで支援するもよし、総会で立候補して理事となり、センター運営に携わるもよし。選択肢、可能性は限りなく広がります。シニアが生きがいを感じ、活き活きシニアが増えていく、これが地方行政のねらいであるわけですが、それと同時に、経験豊かなシニアが自ら運営することで、自治体の高齢者福祉経費を抑えることにも繋がるため、まさにウィン・ウィン効果が得られていると言えるでしょう。
さて、私たち夫婦のような団塊世代のヤングシニアは、果たしてシニア向けアクティビティーセンターをフル活用しているかと言いますと、どうもそうとは限らないようです。60代半ば過ぎにもなると、男女問わず、多くのデンマーク人は退職して自由な時間をかなり持てるようになりますが、まだ自分がシニアであるという意識が薄いためか、どうも「シニア向け」という言葉に抵抗を感じるようです。
デンマークには、一般成人向け教養講座を提供する組織が各地に存在しており、その内容は驚くほど多岐にわたっています。9月スタート、3月か4月頃まで週一回の頻度の講座が一般的ですが、単独講座や数回限定講座、さらに著名人による講演会やテーマ旅行の企画などもあります。これらの講座には18歳以上の成人であれば誰でも自由に参加できますが、すべて有料(と言っても一般年金受給者でも十分支払えるレベル)で、専門性の高い人が教えてくれます。仕事帰りの人も結構いるようですが、やはり大半の参加者は、時間的余裕があるシニアです。
さらにデンマーク主要都市にある4つの国立大学およびその他の地域の85の高等教育機関では、公開学術講座が一年中組まれています。
これは国民大学(Folkeuniversitetet)と呼ばれており、1898年に始まりました。今では年間約14万人がキャンパスに集い、大学教員や研究者レベルの専門家が授業を受け持ち、年間約13500時間(90分授業)実施されています。ただし参加者資格は特に問われませんので、講義テーマに興味があれば、学生であろうと、職業人であろうと、シニアであろうと誰でも参加可能です(これも有料)。
私たち夫婦は、今この活動には少々はまっており、比較的時間の余裕が出る冬季に、各々興味のあるテーマの5回連続講座、週末終日講座などに申し込んで勉強しています。久しぶりに大学キャンパスを訪れ、教える側でなく、教わる側に身を置いて新しい知識を学ぶことは、大いにワクワク感が高まります。そして私の横の席にも、前の席にも、同年輩あるいはそれ以上のシニアの姿が多く見受けられ、学びには年齢制限がないことをつくづく実感しています。